美容整形と個性の希求

プチ整形の登場はあっというまに美容整形のユーザー人口を拡大しました。先に触れた悩める青少年ユーザーを美容整形にたどり着かせたという功績は実に大きいと言えるでしょうし、そのライトでありながら精密なクオリティは、これまで美容整形を敬遠してきた中高年層をも夢中にさせました。一度触れてみると、美容整形の世界は想像を超えて未来的先進性に富んでおり、医学的にも科学的にも優れた存在であり、しかもきわめて人間的なものでした。美容整形は安心して身を委ねられるところだったのです。

プチ整形にはティーンの女の子たちが飛びつきました。深刻な悩みのためではなく、ファッションとして利用するユーザーの誕生です。もちろん格段に安いといっても彼女たちのお小遣いの範囲ですから、ほんのちょっとした部分なのです。他人にしてみれば、言われなければ判らないような、実に些細で些末なコンプレックスを、ほんのちょっとだけ改善するという、お化粧品やアクセサリーと同一の感覚で美容整形を利用するフットワークの軽さなのです。

たとえばある女の子は連休の間にちょっとだけ二重にしてみました。プチ整形といっても技術レベルは立派に我が国の美容整形のレベルですから、効果は絶大です。目に染みるノリを使う必要もなくなりましたし、何より自身がわいてきて、以前の引っ込み思案な自分がウソのようです。性格も明るくなったので、友達も増えたし成績まで上がったのにはお母さんも大喜び。お小遣いを増やしてもらえたので、今度は小顔に挑戦してみようと考えています。

大学生のAさんは美容整形のクリニックでヒアルロン酸を注射してもらい、唇をこころもちふっくらさせてもらいました。もともと唇が薄いので、なんとなく冷たい、近寄りにくい雰囲気があると言われていたのですが、たったこれだけのプチ整形で、やわらかい、あたたかい印象になったと周囲にも大好評です。一度そうなってしまうと自然な笑顔も板についてきて、しゃべり方まで変化しました。ヒアルロン酸が吸収されて、元に戻ってからも、これなら自信を持って人と接することができそうです。

美容整形をこんな風に利用するというやり方は、あることに似ています。かつてビジネスマンが商用に用いたポケットベルで、数字による暗号通信を開発してしまったメンタリティに通じるものがあると思うのです。彼女たちは美容整形、とりわけプチ整形を一種の装置として、自分たちの個性をアピールすることを楽しんでいるのです。